EPISODES それぞれの「これから」

人が健康であるために

粂 康晴さん

(40代)「カーボオフ」オーナー

  • 医薬品業界/営業・開発・人事他
  • 糖質オフのカフェダイニング経営

医療方面へ進んだきっかけ

私の父親は病気がちで、常に入退院を繰り返していました。仕事をしたくてもできない父の姿を見て「健康でいることの大切さ、ありがたさ」を子供の頃から痛感していたのかもしれません。そのせいか、自然と「医療関係」の道を歩み始めていました。
大学で薬学を学び、薬剤師資格を取得。そして、卒業と同時に大手医薬品会社に入社しました。入社試験で「『健康』に貢献したいので、様々な仕事(職種)を経験したい」と答えた事は、今も鮮明に覚えています。
それが理由かわかりませんが、営業に始まり新薬の開発、監査、人事と様々な仕事を経験させてもらいました。特に、開発部門に在籍していた頃、自分が携わった医薬品が承認され、市場に出回った時は、何とも言えない達成感を味わったものです。
その後、所属していた開発プロジェクトが解散となり、そのタイミングで管理部門へ異動。人事部門で人材開発に携わったことが、「社外に目を向けた」きっかけだったように思います。

独立をめざした理由

私が携わったリーダー育成研修に「『今』を見るのではなく、将来どうするか」を考えるプログラムがありました。今にして思い返せば、その時は研修生にお題を提示しつつも、「自分だったらどうするかなぁ…」と、常に考えていたように思います。また、研修の場を通して役員と接する中で、「偉くなっても、自分のやりたいことが100%できるわけではないんだな…」と少し冷めた目で会社組織を見つめるようにもなりました。

同時期に会社の健康診断で「メタボリックシンドローム」と診断されました。体重も今より重く、高血圧の薬を服用するくらい「不健康な体」になっていました。医者から生活指導をうける中で、『糖質制限の食事』を知り、実践したところ、数か月後、体重も減少し血圧も正常値に戻りました。

「薬では治らない病気がある一方、生活習慣を変える事で健康を取り戻す事ができる」。長年医薬品の世界に身を置いてきた私にとっては、新鮮な驚きでした。このことをきっかけに、『人が健康であるためのビジネス』の構想を意識し始めていたのです。「もっとも大切な生活習慣は食生活だ。であれば、健康になるための食生活を提供する仕事をしよう」と思い立ち、その流れで「糖質オフの食事が提供できるカフェ」の開店にいきついたのです。

ちょうど、会社が「早期退職制度」を実施していた時期でした。
(早期退職の加算金は、開店費用に充てられる。外に出るなら今!)そう思って、私は制度に応募しました。

開店までの苦労

まずは店舗探し。今まで通勤時間に往復2時間以上かかっていたので、「自宅から近いエリア」で物件を探しましたが、なかなか見つからない。他にも様々なことが前に進まず、「自分は今、何もしていない」と不安感が膨らんだ時期もありました。そんな時、キャリアカウンセラーに話を聞いてもらい、気持ちの整理をつけたことも数多くありました。家族から独立開店することを反対されていた時期でしたので、その頃の私の心の支えはキャリアカウンセラーでした(笑)。

そんな折、独立セミナーに参加。その後の個別相談を受けた時に、私の事業計画書を見て、具体的な資金面に関する助言と共に「計画通りに進まない事は“あたりまえ”だと思った方がいい。」とアドバイスされたのです。
その言葉で、腹をくくる事ができたような気がします。

幸い、物件は無事決まりましたが、その後も内装費用が予算内に収まらなかったり、工事の遅れでオープンが遅れたりと思い通りにいかない事がたくさん。そのたびに講師の言葉を思い出しては自分を奮い立たせていました。お蔭さまで、当初の予定より2か月遅れで無事開店。開店前のレセプションにはキャリアカウンセラーも顔を出してくれました。

独立した今。そしてこれから

開店して半年。まだまだ苦しい時期は続いています。しかし、あくまで「カフェ」は「生活習慣を変えるきっかけの場」であり、描きたい世界観実現の入口に過ぎません。今後はTAKE OUTを始め、自宅で糖質オフの食事を楽しんでいただきたい。通販もやりたい、料理教室を開いて、生徒さんが自分で糖質オフの食事が作れるようになればいい・・やりたい事は広がっていくのに、スピード感をもって進めないもどかしさを感じています。

実は、私はカフェのオーナー以外に別の顔も持っているんですよ。一つは友人の紹介で始めた「メディカル雑誌(オンライン)」のコラム掲載です。著者紹介コーナーにカフェの事も触れているため、時折「医者から勧められて・・」とカフェを訪れる人も出始めました。
あと一つは、「俳優」としての顔です。きっかけは、単なるミーハー感覚。(退職したら、今までやっていなかったことにチャレンジしたい)と思い、ちょっとした好奇心でエキストラに応募したのです。映画やドラマに登場するうちにエキストラでは物足りなくなってしまって、芸能事務所に所属し、今ではNY仕込みのトレーナーに月2回ボイストレーニングを受け、他に演技レッスンに通う等、すっかりはまっています。
まったく異なるように見えますが、俳優は「人の心を動かす」仕事。私のなかでは、「人を元気にする」点で共通しているのです。

こうして、いくつもの「役割」を演じられるのも「フリーランス」ならでは。自分がやりたい事だけにフォーカスできるのも、自分が頑張って「やろう」と思えばできるのも「フリー」の醍醐味です。組織にいた時も「やりがい」はあった。でも今の「やりがい」とは種類が異なるような気がします。確かに、今の自分に経済的に安定感はありません。お金だって減っていくばかりですよ。でも、やりたいことが形になりつつあることは実感しています。

カーボオフ