EPISODES それぞれの「これから」

お金をもらいながら、
ワインの知識を深められる

大好きなワインに囲まれて

板垣花江(仮名)さん

(40代)/1年8か月(実質活動は8か月)

  • 物流 / 国際物流管理
  • 百貨店

退職を決意するまで母の介護

もともと語学を生かした仕事がしたいと考え、国際物流企業に入社しました。一貫して、国際輸送に関する業務を担い、海外出張も数多く経験。仕事が楽しくて仕方ありませんでした。
何がきっかけは忘れましたが、ワインに魅せられ、長期休暇にフランスのワイナリー巡りをしたり、ワインの教室に通い、『ワインエキスパート』の資格を得るなど、公私ともに充実した日々を送っていました。
入社20年経った頃でしょうか。母の具合が悪くなり、休日の度に実家に戻っていたのです。仕事上では主任に昇進、以前にも増して責任が重くなり体力的に(ちょっとキツイな)と思い始めた時期だったので思い切って1年間「介護休暇」を申請したのです。介護と仕事の両立に疲れていたこともあり、(介護休暇の1年の間に、先のことをゆっくり考えればいいや)と外の世界も考えていたように思います。
半年後、会社が「早期退職制度」を発表。漠然と考えていた「外の世界」が俄かに現実味を帯びてきました。
(母の介護もある。仕事の拠点を地元に移して、新たに始めるなら『今』だろう。『今』ならまだ間に合うはず)そう考え、早期退職に応募しました。

再就職活動をはじめて

母の介護を優先していたため、実際に再就職活動を開始したのは、退職1年後からでした。キャリアカウンセラーからは「活動できなくても、労働市場の勉強はできますよ」と言われ、自分なりに求人情報を収集してみました。大学入学と同時に自宅を離れた私は、地元の労働市場などわかりません。企業規模が小さくなるだけで、国際物流の需要は、地元でもあるはずだと思っていましたが、想定以上に経験職種での求人がなかったことに気づかされました。

母の容態が安定し、再就職活動を本格的に始めた私は、応募書類を作成することから開始。今思えば、資格や自己PR欄にワインに関する記述をしたのは、(ワインに関する仕事ができたらな…)という思いが隠されていたからかもしれません。キャリアカウンセラーから「ワインエキスパートの資格」について問われたとき、ワインの魅力についてとうとうと語っていたのです。
「地元はワインが名産。ワインに関する仕事を探すのもいいのでは?」と提案され、求人開拓担当とキャリアカウンセラーが、片っ端から県内のワイナリーに私を売り込んでくれました。しかし、小さなワイナリーはほぼ家族経営。人手がほしいのは収穫時期のみ、メインは畑仕事のことが多い。それでは自分の志向と異なるし、何より体力的に無理。
そんなある日、キャリアカウンセラーが提案してくれたのが、地元百貨店の酒販売業務。「え〜!販売ですか?」ワインに関する仕事とはいえ、“販売業”は想定外。条件面からも自分だったら目にとめない仕事でした。それでも応募に踏み切ったのは「応募しないことには始まらない」というキャリアカウンセラーの言葉でした。(内定が出ても、嫌だったら辞退すればいいか…)そんな軽い気持ちで応募したのですが、酒売り場を見たときに(ワインの種類が少ないな。レイアウトも私なら…)と考えていた自分がいました。だからでしょうか。内定連絡を受けたとき「まず、働いてみよう」と一歩踏み出す決意をしたのです。

再就職してからの驚き

入社すると驚きの連続!導入研修もマニュアルもない。パソコン端末もなくカーボン入りの伝票での業務。売り場は“和洋酒コーナー”というより“酒屋さん”。制服はエプロンに三角巾。ついつい以前の会社と比べてしまい、(試用期間の3か月を待って、もう一度考えよう)とネガティブな気持ちになる時もありました。
ところが入社2か月後、前任者の退職に伴い、必然的に仕入れから売り場つくりまでを私が担うことになったのです。会社は“和洋酒コーナー”をリニューアルしたいと思っていたため、それでワイン知識のある私を採用したようでした。それからは職場に対する希望を伝えると、次々と実現していきました。
「ワインエキスパート」を“売り”にするため、制服を新調。仕入れ先とのやり取りの為にパソコン端末を設置し、名刺も用意してくれました。(これでは、辞められないな…)と苦笑しながら、新たに始まる世界にワクワクしたことも事実です。

以降、休日に県内のワイナリーを回り、新たな仕入れ先を開拓したり、輸入先のルートを確保するなど、品揃えを充実させることに着手。売り場の改装も任されたため、大々的にリニューアルを提案し、売り場の名称も改名。地元テレビ局で紹介され、なんとNHKに出演して、地元のワインを紹介することも決まり、毎日が目まぐるしく過ぎていきます。
待遇面など、前職と比べると決して恵まれているとは言えない現状。でも、仕入れ先開拓する中で、ワインを作る過程の裏側を知ることができるんです。東京では、お金を払って「ワインの勉強」をしていたのに、「お金をもらいながら、ワインの知識を深められる」ことに喜びを感じます。

販売の仕事への思いの変化

最初は抵抗があった“販売”の仕事。入社直後は「仕事だから」と割り切った接客をしていたのですが、実践するうちに気が付いたんです。東京にいた頃、デパートに行くことが多かった。そこで身をもって感じた(“相手が気持ちよくなる接遇”を今度は自分がお客様に提供すればいいんだ)と。そのころから、お客様への対応も変わってきたように思います。

これから

この売場に入社して1年半。贈答用だけでなく、家庭で飲むために購入される方が増えたことは本当にうれしい。先月、ワインと料理の相性を紹介する「ワインセミナー」を開催。大好評でした。まだまだやりたいことはあります。ワインの世界で「この人がいたら面白い仕事ができるかも…」と思ってもらえるといいかな。今はまだまだ修行中の身。もっともっと勉強して、ワインに関する仕事の幅を広げていきたい。そんなことを考えながら、ワインのラベルを見て幸せに浸っています。